不織布が土にかえるかどうかは、不織布に使用される原料によって結果が変わります。
この記事では、どのような不織布が土にかえるのか原料に注目してご紹介し、土にかえるまでの様子を写真でお伝えします。また、分解性の機能を持つ不織布が適する製品、用途についてもあわせてご紹介します。
目次
不織布は土にかえるのか?
不織布が土にかえるかどうかは、不織布の原料に注目すればその答えがわかるでしょう。
不織布の主成分はプラスチックです。プラスチックは自然界で分解に時間がかかり、土に戻るプロセスが非常に遅い素材であるため、通常の不織布は土に埋めても迅速に分解されません。
つまり、多くの不織布は土にかえるのが難しい素材であると言えます。それにも関わらず土に不織布を廃棄してしまうと、プラスチックが分解されてできる微小な粒子“マイクロプラスチック”が土壌汚染を引き起こしたり、水中にまで流れ出ると水中生物が有害物質を摂取したりする恐れがあります。
このように土にかえすのが困難な不織布ですが、近年では、土にかえる不織布が開発されています。それは一体どのような不織布なのかを解説します。
土にかえる不織布の原料:生分解性プラスチックとは
不織布が土にかえるのが難しい理由は、その原料であるプラスチックにあるとお伝えしました。つまり、土にかえる不織布というのは、土にかえるプラスチックを原料にしているのです。
土にかえるプラスチックを「生分解性プラスチック」と言いますが、どのような原材料が生分解性を持つのか以下に示します。
PLA(ポリ乳酸)
PLAは、微生物発酵による乳酸(トウモロコシやイモ類など)を原料とした重合体で、硬質プラスチックとして使用され、食品包装材料、医療用具などに活用されています。
PLAは生分解性プラスチックではありますが、通常の土壌においては分解されにくく、コンポストなどの高温多湿の条件下で分解されやすいという特徴があります。
PHA (ポリヒドロキシアルカン酸)
PHAは、ヒドロキシブタン酸の重合体で、脂肪酸や糖を微生物発酵させて生成されるポリエステルです。一部のPHAは酸素や水分を遮断するバリア性を持っているため、食品包装にも適しています。
さまざまな生物有機資源から合成でき、土壌や海洋、河川など多様な場所にPHAを分解する微生物が分布することも特徴です。
バイオPBS(ポリブチレンサクシネート)
バイオPBSは、バイオベースのプラスチックの一種で、ポリエステルの一つです。PBS自体は一般的に石油由来のプラスチックであり、バイオPBSは生物由来の原料から合成されたポリブチレンサクシネートです。
バイオPBSは食品包装材料や医療用具、農業用フィルムなど高耐熱性で繊維などと融解しやすいため、工業製品(3Dプリンターのフィラメントなど)に採用されています。
土壌でも分解されやすく、環境への配慮を重視する製品や産業においてバイオPBSが活用されるでしょう。
PHBH(ポリヒドロキシ酪酸エステル)
PHBHは、微生物(特に特定の細菌)によって天然のポリヒドロキシ酪酸から合成される生分解性ポリマーです。
高温に耐えることができ、食品包装材料や農業用フィルムなど、高温で使用される製品に適しています。
PHBHは土壌でも分解されやすいため、今後、環境にやさしいプラスチック材料として使用される場面が増加すると考えられます。
不織布が土にかえるまでの経過
生分解性プラスチックを原料にする不織布は土にかえることができますが、それにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
以下の画像は、PLA(ポリ乳酸)100%のTシャツが分解する経過を記録したものです。
堆肥温度:68℃(3日後、引き上げ時の温度)、水分量50%前後 |
PLAはコンポストなどの高温多湿の条件下で分解されやすいとお伝えした通り、堆肥温度68℃で水分量も多くある環境下では、6日も経てばPLA100%のTシャツはぼろぼろに分解されTシャツとしての形を成さなくなっています。
ここから完全に土にかえるには、条件にもよりますが、あと数週間はかかると考えられます。短期間での分解は容易ではありませんが、従来の不織布の処分方法である焼却処分と比較すると、自然界に存在する微生物によりH2OとCO2に分解されることで有害な物質は発生させないため、生分解性という機能がある点では環境負荷の低い素材であると言えるでしょう。
不織布が土にかえるメリットとデメリット
不織布が土にかえることのメリットとデメリットには具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
メリット1. 環境への負荷の軽減
不織布が土に帰ることでプラスチック廃棄物が減少し、環境への負荷が軽減されます。生分解機能があればこれまで焼却処分で生じていたCO2が削減され、仮に焼却処分をしたとしても、原料にトウモロコシなどのバイオマスを使用しているPLAなどであれば、植物の生育過程でCO₂を吸収しているため、焼却しても大気中のCO₂は差し引きゼロになり、カーボンニュートラルを実現できます。
メリット2. マイクロプラスチックの生成を軽減
生分解性プラスチックは、通常のプラスチック製品よりも微小なプラスチック粒子(マイクロプラスチック)を生成しにくいため、環境への微粒子プラスチックの拡散を減少させる可能性があります。
メリット3. 堆肥化
生分解性の不織布は堆肥化プロセスに適している場合があり、堆肥作成に使用が可能です。これにより、有用な堆肥が生産され、土壌への有益な栄養が供給されることが期待できます。
デメリット1. 保管中の劣化の恐れ
一般的に、生分解性プラスチックは、湿度、温度、紫外線、酸素などの要因に敏感で、これらの要因によってプラスチックが劣化する可能性が高まります。
したがって、生分解性プラスチックをこれらの要因から保護するために、
- 乾燥した場所
- 直射日光を避ける
- 適切な温度
などの適切な条件で保管することが重要です。
デメリット2. 原料価格が高くコストがかかる
生分解性プラスチックの製造には、通常バイオマス由来の原料(例:トウモロコシスターチ)が使用されます。これらの原料は、石油由来のプラスチックよりも高価で、それに伴い生分解性プラスチックの原料価格が高くなることがあります。
また、生分解性プラスチックの製造プロセスには特殊な技術と設備が必要で、これらの設備の導入と維持にコストがかかります。
さらに、生分解性プラスチックの原料や製造技術はまだ一般的に普及していないため、供給が限られており、それが価格に影響を与えているのが現状です。
土にかえる不織布の用途とは
土にかえる不織布は、主に農業や土木資材、生ごみ収集袋、食品容器の包装などに活用されています。
例えば、農業用保温シートは植物の生長を促進し、寒冷な気候条件下から作物を保護するために使用されますが、生分解性プラスチックであれば、使用済みのシートを回収・廃棄する手間を省くことができます。
また、生ごみ収集袋は生ごみと一緒に廃棄されることが多いため、袋自体が分解されれば有害な残留物を残さず堆肥化プロセスに適しています。
このように、環境にやさしい生分解性プラスチックですが、耐久性のほか、分解速度が適切であるかどうかを考慮する必要があります。過度に速い分解は、保温シートなど製品の寿命を制約する可能性があるため、使用環境に適した製品を選ぶことが重要です。
自動車用資材から土木資材まで!「不織布」はマルヰ産業におまかせ!
今回は、不織布が土にかえることについてお伝えしました。マルヰ産業でも、家庭に身近な用品のPLA不織布を開発することで、環境負荷低減を目指しています。
マルヰ産業は、自動車部品から建設業界に至るまで、日本のものづくりを影で支える「不織布」専門の製造・加工メーカーです。
土にかえる生分解性以外にも機能性を持たせた不織布の製造が可能ですので、疑問点やお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。