植物由来の原材料を基に製造されるバイオマスプラスチックの耐久性は、一般的な化石燃料を原料とするプラスチックと比較して低い傾向にあると言われています。
この記事では、バイオマスプラスチックの耐久性や強度はなぜ低いのかを、劣化が早くなってしまう要因に着目して解説します。
また、バイオマスプラスチックの中でも比較的耐久性が高い原料をご紹介し、バイオマスプラスチックを用いた不織布を製造する際の、耐久性を低下させないための工夫についてもお伝えします。
目次
バイオマスプラスチックとは
バイオマスプラスチックとは、化石燃料ではなく再生可能な原料であるバイオマスから製造されるプラスチックの総称です。通常、バイオマスプラスチックは植物由来の原材料を基にしており、例えばサトウキビ、トウモロコシ、サトウダイコンなどの植物から抽出された炭水化物や繊維を用いて作られることがあります。
通常のプラスチックは石油などの化石燃料から製造され、その生産や廃棄において二酸化炭素や他の有害物質を排出します。しかし、バイオマスプラスチックは再生可能な原料から製造されるため二酸化炭素などの有害物質の排出を抑制し、環境への負荷を低減する効果があります。
地球温暖化の原因となっている二酸化炭素の削減が叫ばれる中、環境にやさしいバイオマスプラスチックに期待が集まっています。
▼バイオマスプラスチックの原料や基礎知識についてはこちらをご覧ください。
「バイオマスプラスチックの原料とは?特徴や種類今後の課題について」
バイオマスプラスチックの耐久性は低い?
環境にやさしいという特徴がメリットの一つであるバイオマスプラスチックですが、耐久性は高いのでしょうか。
ここでの耐久性とは、時間と使用に関連してバイオマスプラスチックを原料にした製品がどれだけ持続するかを示します。
バイオマスプラスチックの耐久性は、使用される原料や加工方法によって異なるため、すべてのバイオマスプラスチックが同じ耐久性を持っているわけではありません。
しかし、一般的にはバイオマスプラスチックは植物由来の素材で天然素材であるため、従来の石油由来のプラスチックと比べて耐久性がやや低い傾向があるとされています。
以下が、バイオマスプラスチックの耐久性が低いとされる主な理由です。
紫外線に弱い
バイオマスプラスチックは紫外線にさらされることで劣化しやすくなる恐れがあります。これは、紫外線がプラスチック分子を切断し、酸化反応を引き起こすためです。この酸化反応により、プラスチックの物理的な特性が変化し、色あせ、割れ、脆弱になることがあるのです。
また、生分解性を持つ一部のバイオマスプラスチックは、紫外線によって生分解が促進されることもあり、バイオマスプラスチックは一般的なプラスチックよりも耐久性が低くなってしまいます。
湿気を吸収する
一部のバイオマスプラスチックは湿気を吸収しやすい性質があります。湿気の吸収により、プラスチックの物理的な特性が変化し、強度が低下したり変形したりして耐久性に影響を及ぼす恐れがあります。
また、生分解性を持つバイオマスプラスチックの中には、湿気によって微生物による分解が進むものがあります。その分解によってバイオマスプラスチックの劣化が促進し、耐久性に影響が出てしまうのです。
バイオマスプラスチックの強度について
耐久性が低いという特徴があるバイオマスプラスチックは、強度という点においても一般的なプラスチックに劣ります。強度とは、バイオマスプラスチックでできた製品が外部からの負荷に対してどれだけ耐えられるかを示すものです。
例えば、私たちマルヰ産業が不織布製品製造に使用しているのは、主にプラスチックのPET繊維ですが、それに比べてバイオマスプラスチックであるPLA繊維の引張強度はPET繊維の約50%で、耐熱性も半分程になるというデータがあります。
バイオマスプラスチックの強度が低い主な理由として以下のものがあげられます。
原料の特性
バイオマスプラスチックの原料は通常植物由来の素材です。そのため、耐久性と同様に紫外線や湿気などの影響を受けやすく、これらが原因で強度が低くなってしまいます。
分子構造の違い
バイオマスプラスチックは、バイオマスから発酵や化学的なプロセスを経てプラスチックとなります。例えば、PLA(ポリ乳酸)は、トウモロコシ由来の糖分を発酵させ、それをポリマー化して作られます。
そして、植物由来のポリマーは、通常、従来の石油由来のポリマーよりもアモルファス(非結晶性)な構造を持つことがあり、このアモルファスな構造は結晶性のある構造よりも強度を低くする傾向があるのです。
生分解性の優先
バイオマスプラスチックの中には生分解性を持たせるものもありますが、分解性の向上を優先させることで強度が低下する恐れがあります。
なぜなら、生分解性を優先させるためには微生物や自然環境に分解されやすい結合のプラスチックにする必要があり、これによってプラスチックの分子が容易に切断されるため強度が低下することになるからです。
さらに、生分解性を促進するために特定の添加剤が使用されることがあります。これらの添加剤がプラスチックの分子構造に影響を与え、強度の低下を引き起こす可能性もあるとされています。
耐久性が高いバイオマスプラスチックの原料とは
一般的なプラスチックに比べて耐久性や強度が低い傾向にあるバイオマスプラスチックですが、その中でも比較的耐久性が高い原料にはどのようなものがあるのかをご紹介します。
PLA(ポリ乳酸)
まず、他のバイオマスプラスチックよりも耐久性が高いとされるものにPLA(ポリ乳酸)があります。通常、標準的な使用条件での寸法安定性が比較的良好です。また、特に低温および低湿度の環境では比較的耐久性が向上する傾向にあります。
PBS(ポリブチレンセバセート)
次に、PBS(ポリブチレンセバセート)も耐久性が求められる分野で活用される原料です。生分解性でありながら、一般的なプラスチックよりも高い強度や柔軟性を持つことがあります。また、PLAよりも柔軟性が高いため、一部の用途で選択されることがあります。
バイオPET(バイオポリエチレンテレフタレート)
バイオマス由来の素材から作られたバイオPET(バイオポリエチレンテレフタレート)は非生分解性ですが、耐久性が比較的高い特徴があります。
具体的には、バイオマス由来ではない石油由来のPETと同等の強度を有するほどです。また、PLAの2倍ほどの強度があるというデータもあります。
バイオマスプラスチックを用いた不織布の耐久性は?
バイオマスプラスチックを用いて不織布を製造する場合、一般的なプラスチックよりも繊細な素材であるため、さまざまな工程において慎重に作業をしなければなりません。
ここで、我々マルヰ産業が開発に取り組む、PLA(ポリ乳酸)繊維を使用したニードルパンチ不織布の製造を例に、バイオマスプラスチックを用いた不織布製造にはどのような工夫が必要かをご紹介します。
シリンダーの回転数調整
PLA繊維は通常、PET(ポリエチレンテレフタレート)よりも機械的なストレスに対して敏感な素材です。
そのため、カーディング工程の際にシリンダーの回転数を下げることで繊維にかかる力や摩擦を減少させ、PLA繊維の性質を損なわせないように注意を払っています。こうすることで、PLAを用いた不織布の耐久性が低下しないように工夫しています。
温度管理
ニードルパンチ不織布のカーディング工程では、繊維が柔らかくなる温度制御も重要です。PLAは比較的低い融点を持つため、過度な熱にさらさないよう、適切な温度で処理することが耐久性維持のためには重要です。
適切な針の選択
ニードルパンチに使用する針の種類や形状を適切に選択することも、バイオマスプラスチックを用いた不織布の耐久性を低下させないために重要です。
PLA繊維に最適な針を選ぶことで繊維の引き裂きや損傷を最小限に抑えることができるため、製造段階で劣化を早めることを防ぐことができます。
自動車用資材から土木資材まで!「不織布」はマルヰ産業におまかせ!
今回は、バイオマスプラスチックの耐久性についてお伝えしました。
マルヰ産業は、自動車部品から建設業界に至るまで、日本のものづくりを影で支える「不織布」専門の製造・加工メーカーです。
さまざまな機能性を持たせた不織布の製造が可能ですので、疑問点やお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。