生分解性プラスチックは、環境にやさしい新しいプラスチックとして、レジ袋や農業用マルチフィルムなど私たちの身の回りでも利用されています。
世界中の多くの企業で研究・開発が進んでいる生分解性プラスチックですが、どのようなメリットやデメリットがあるのかご存じでしょうか。
今回は、生分解性プラスチックのメリットやデメリット、今後解消すべき問題について解説します。
目次
生分解性プラスチックとは
生分解性プラスチックとは、自然界に存在する微生物などの働きにより、プラスチックがH2O(水)とCO2(二酸化炭素)の分子レベルまで分解する性質を有するプラスチックのことです。
有害な物質を発生することなく自然に還ることから、環境負荷が少ないプラスチックとして注目されています。
「日本バイオプラスチック協会(JBPA)」において、生分解性プラスチックは以下の条件を満たすものと定義されています。
- 単にプラスチックがバラバラになることではなく、微生物の働きにより、分子レベルまで分解し、最終的には水と二酸化炭素となり、自然界へと循環していく性質を有するもの
- 国際的に規定された試験方法と定められた基準により審査されたもの
- 重金属などの含有物や分解過程(分解中間物)での安全性などの基準をクリアしたもの
生分解性プラスチックを利用するメリット
海洋プラスチック問題や地球温暖化問題への解決策の一つとして挙げられる「脱プラ」。その具体的な取り組みの一つとして生分解性プラスチックの商品の研究・開発が行われています。
そこで、生分解性プラスチックを使用すると具体的にどのようなメリットを得られるのかをご紹介します。
メリット1. プラスチックごみの削減
従来のプラスチックは、自然に分解される性質がないため、一旦自然界に流出してしまったものは永久的に残置されたままになりますが、生分解性プラスチックは、一定の条件下(土壌・海洋・河川)であれば分解される性質を有しています。
そのため、埋め立て廃棄が全体の約8割を占める使用済みプラスチックのうち、一部分でも生分解性プラスチックであれば、生分解性プラスチックの使用は埋め立て廃棄量の削減につながると言えます。
メリット2. 二酸化炭素量の削減
プラスチックの廃棄方法の一つに焼却処理がありますが、生分解性プラスチックは焼却処理を行わなくても適切な土壌廃棄などにより分解処理されるため、焼却に伴い排出されるCO2の量を削減することができます。
メリット3. 石油などの化石資源の使用削減
一般的なプラスチックの原料は石油由来の化学製品ですが、生分解性プラスチックの原料には、バイオ由来のものもあります。
例えば、ポリ乳酸やポリヒドロキシアルカン酸のような植物由来の資源や有機資源からつくられているものは、原料に石油を使用しないため化石資源の使用削減にもつながります。
生分解性プラスチックを利用するデメリット
生分解性プラスチックを利用するメリットは、環境影響の面で大きいと言えますが、デメリットはどのようなものでしょうか。
生分解性プラスチックの性質に着目しながら、具体的なデメリットを挙げてみます。
デメリット1. 生分解性が環境によって異なる
生分解性プラスチックは、土壌や海洋の微生物によって分解されますが、すぐに分解されるわけではなく、完全に分解するまで環境状況の違いによって一定の年月がかかります。
日本バイオプラスチック協会(JBPA)では、生分解性の基準として3か月で対象物が60%以上が分解されることを定義としています。
自然に還るとは言っても、完全に形がなくなるまでには長い年月がかかってしまうのです。
デメリット2. 耐熱性・強度が低い
生分解性プラスチックは、土壌や海洋などの微生物によって分解されるという性質があるが故に、耐熱性・耐油性が低く、継続的な荷重や強度が必要とされる用途には不向きです。
そのため、コンビニエンスストアのお弁当容器など、電子レンジによる加熱が想定されるものには採用できないという問題点があります。
しかし、最近では製品改良され、ポリ乳酸などでも電子レンジ対応の商品も開発され始めています。
デメリット3.適切な分別をしなければ特性が活かせない
一般的なプラスチックと同様に、可燃ごみとして家庭や企業で廃棄されてしまうと、生分解性プラスチックが有する特性(土壌・海洋などで微生物により分解される性質)が活かされないことになります。
また、埋め立て廃棄ができるにも関わらず、可燃ごみで廃棄されると焼却を行うことになり、エネルギーやコストが無駄にかかってしまいます。
生分解性プラスチックのデメリットから発生する問題点
これらの生分解性プラスチックのデメリットによって、どのような問題が発生しているのか、具体例を見てみましょう。
海洋生分解性のプラスチックは普及していない
生分解性プラスチックの、土壌の微生物による分解と、海洋や河川などの微生物による分解速度とを比較すると、土壌での環境の方が分解が早いとされています。
そして、国内で生産されているプラスチックの内、生分解性プラスチックはわずか0.02%ほどで、その内、海洋生分解性プラスチックはさらにわずかしか作られていません。
これでは、プラスチックごみによる海洋汚染問題はなかなか解決されないでしょう。
ただ、現在あまり市場には普及していないものの、海中で分解するポリカプロラクトン(PCL)プラスチックやアルカノエート(PHA)などの研究・開発も行われてきています。
原料が石油由来であればカーボンニュートラルとは言えない
生分解性プラスチックは、バイオ由来、バイオ由来+化石由来、化石由来の3パターンの原料からつくられます。
この内、PVA(ポリビニルアルコール)やPGA(ポリグリコール酸)などの石油を原料とするものは、生成や焼却時のCO2排出量がバイオマスプラスチックより多くなり、カーボンニュートラルが実現できているとは言えません。
もちろん、一般的なプラスチックを生成・焼却する際と比較すれば、生分解性プラスチックのCO2排出量は少なくなりますが、理想的なのは、バイオ由来の生分解性プラスチックが使用されることです。
ごみの回収システムが機能していない
生分解性プラスチックのデメリットとして、適切なごみの分別がされなければ特性が活かされないことを先程述べましたが、日本全国の全ての自治体でごみの回収方法は異なります。
例えば東京都においては、2008年からプラスチックと他のごみを一緒に回収して、焼却処理を行っています。しかし、これでは生分解性プラスチックを流通させる意味がなく、前述した生分解性プラスチックのメリットを活かせていないことになります。
そのため、各都道府県や自治体において、生分解性プラスチックの廃棄や回収における整備が必要とされています。
マルヰ産業も環境負荷の低い素材使用を目指します
マルヰ産業は、自動車部品から建設業界に至るまで、日本のものづくりを影で支える「不織布」専門の製造・加工メーカーです。
生分解性プラスチックは分解される温度以下で加工することが必要なため、従来の繊維よりも加工方法が限られてしまいます。
また現状では、従来の繊維よりも高価格であるため、当社の既存商品ラインナップへの導入も難しい点が多いと考えます。
しかし、マルヰ産業が長年利用してきた再生ポリエステル原料(廃棄物になったペットボトル等)は近年のリサイクル率上昇により需要が急上昇しており、素材の取り合いの中で、新たな環境負荷の低い素材で製品開発することは非常に重要です。
マルヰ産業では、環境負荷の低い素材を使用して生産でき、二酸化炭素の排出量の削減に寄与していくための商品開発をこれからも行ってまいります。
「不織布やフェルトについてくわしく知りたい」など、疑問点やお困りごとがありましたらお気軽にご相談ください。